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障害児教育分野における海外青年協力隊派遣現職教員サポート体制の構築−現職教員研修事業とテレサポートシステムの活用−

筑波大学
前川 久男

1. 概要

 昨 年度のニーズ調査および現地調査等から、現職派遣隊員のプロフィールと 現地活動に関して、以下のような特徴があることが解ってきた。

  1. 派遣隊員の障害児教育の国内経験に関して、その多くが10年未満であり、 十分な教育技術を身につけつつある世代であるが、研修および研究に関して経 験の浅い世代でもある。
  2. 一方、派遣志望動機では、「自己研鑽」「国際的視野を広げたい」等隊員 の自己内向的な動機が多く、「経験の活用」「専門性の発揮」等の任国への具 体的貢献に関わる自己評価は比較的低いものであった。
  3. 派遣に当たって要請された内容と任国における活動内容に関して、当初の 隊員活動は、現地での実務的な担い手として期待されていることが窺え、現地 スタッフとの調整に苦戦していた。派遣2年目からは、多くの隊員が専門性の 移転を課題としており、資料作成やワークショップ、授業研究等のコーディネー トと内容の深化に関して、多くの困難を抱えていた。
  4. 任国において当初求められる指導法等の具体的研修内容に加えて、隊員お よび任国のスタッフに対する「障害理解(特に重度障害・重複障害・自閉症 等)」に関わる研修内容が求められている。特に、我が国同様に就学 率が増大しつつある自閉症児の教育に関しては、集団指導の形態や指導内容等 の面で、多くの困難を抱えている現状である。
  5. 任国に必要とされる支援として、人材養成と隊員増員等今後の活動の充実 と発展を見通した内容への回答が多く、現地からあげられてくる派遣要請より も今後の具体的展望を持ったものとなっている。
  6. 任国の人材養成に関して、先導的な隊員活動が認められつつあり(ブック レット作成、ワークショップ開催、授業研究会開催等)、我が国の教育的蓄積 の活用を図っている。しかし、これらの活動を、任国における人材養成システ ムや我が国の養成システムとの共同による専門性を担保した資格取得促進等の 現地スタッフのキャリアアップに進化させる段階にきている。

 これらの調査結果等を十分に反映して、本年度の活動では、派遣隊員の スキルアップ及び相談体制の強化とともに、隊員活動をエンパワーする支援を JICA事務所 等と連携して展開していくための支援モデルをジャマイカ 及びマレーシア に構築する体制を強化していく。特に、障害児教育に関わる専門的人材養 成プログラムがなかったり発展途上であったりする国々は多く、今後の隊員活 動が任国における人材養成に資することは、他領域の派遣要請に大学等の養成 講座の教育活動があるように、強く望まれているところである。隊員の活動が より高次化され、任国の教員等が、次の時代を自立的に担っていくための体制 を整備することの意義は高いものと考えられる。現在の連携協力態勢の状況か ら、マ レーシアア ジア地域の政治経済の発展モデル)ジャマイカ アフリカ 系諸国の発展モデル)の両国で、人材養成における筑波大学の協力モデルを提示してい く事を通して、今後国内の大学等が広く協力することで、障害児教育分野の国 際協力における将来的効果が認められるところであると考える。

 また、 ジャマイカ国JICA事務所が国内隊員のチームアプローチを強化するた めのシニア隊員派遣を行う。これらの現職教員隊員の活動をコーディネートし ていく活動体制整備等、JICAの 展開する先導的な活動に対して、効果的な隊員支援のあり方について協働した 取り組みを展開する。

 さらに、我が国同様、派遣国で課題となっている自閉症教育に 関する研修教材に関して、他障害に優先して作成する必要があると考えられる。

2. 目標

  1. 一貫した研修プログラムに資する研修教材の試作を行う。
  2. 派遣中及び帰国後の情報交換と派遣中の相談活動を展開する情報ネットワークの構築及びテレサポートを支えるソフトウェアの改善を行う体制を強化する。
  3. 任国における人材養成に対する支援として、現地のワークショップにおけるプログラム開発を行う。
  4. 拠点国において、隊員とともに現地の大学及びCP等と連携した人材養成協力モデルに向けた取り組みを強化する。

3. 成果物

  1. 人材及び教材データバンクを活用した、日常的情報共有及び相談展開のための専用ブログ
  2. 自閉症教育研修教材試作版(隊員の自学教材及び、ワークショップ等の参考教材として)
  3. JICA現地事務所及びCPと協働した、隊員と我が国大学が協働して行う現地における人材養成実施計画及び体制のモデル(人材、プログラム、体制、活用可能な予算等)
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