途上国における教育の「質」の向上に資する教育手法モデル・カリキュラムの構築と検証
拓殖大学
赤石 和則
1. 概要
途上国における基礎教育の完全普及が叫ばれて久しく、特に初等教育や
前期中等教育レベルでの相当年齢層の完全就学促進はいまや焦眉の課題となっ
ている。そこで本活動に先立つ、平成18年度拠点システム構築事業「国際教
育協力イニシアティブ」調査研究では、かかる就学を一層促進するために、教
育の「質」的側面で、日本の知見・経験がいかに裨益しうるかについての実証
的・予備的調査を、タイと
ラオス
を事例に行った。またその可能性について、研究会を重ねて検討を進めた。そ
の中から拓殖大学国際開発教育センターがこの間実証的に取り組んできた、学
習意欲を促進し、学習成果を定着させるための「参加型学習」や「ファシリテー
ション技能」のノーハウ、研究蓄積を活かし、効果的に途上国の教育現場に導
入し得るモデル・カリキュラム開発の方向性が見えてきた。
本活動では、平成18年度の調査研究を踏まえて、以下の活動を実施する。
(1)モデル・カリキュラム及び評価指標の作成
基礎教育において、学習者の勉学意欲を促進するための、教員・指導者
用の体系的なモデル・カリキュラムを作成する。参加型学習促進のためのファ
シリテーション技能、学習カリキュラム事例等を盛り込む。また、そのモデル・
カリキュラムの汎用性を検証するために、評価指標を作成する。
なおここでいう「参加型学習」とは、知識注入型と対峙したり、基礎知
識習得のプロセスを軽視したりするものではない。その意味で、巷間言われて
いる、知識や基本技能習得と遊離した参加型学習とは一線を画するものである。
〈作成手順〉
- この間、
拓殖大学国際開発教育センター(以下センター)が構築してきたファ
シリテーション技能養成のカリキュラムをベースに作り上げる。
参考:
センターが実証的に構築してきたモデル例
- ファシリテーションの概念(全体像)。
- ファシリテーションの基礎1:場を作り、場を読む。
- ファシリテーションの基礎2:対話をうみ出し、意見を引き出す。
- ファシリテーションの基礎3:プロセスをデザインし、深める。
- ファシリテーションの基礎4:論議を構造化し、まとめる。
- ファシリテーションの基礎5:対立を解消し、意思決定する。
- 参加型教育手法の整理。
- アクティビティの作成と実践。
- 学習プログラムの作成と実践。
- ワークショップの企画と運営。
-
タイの農村地域(東北タイ)で、参加型学習をベースとした教育実践
に取り組んでいるコンケン大学やアジアこども教育センターなどの図書
普及事業、移動寺子屋教室のモデル・カリキュラムと組み合わせること
で、より途上国の実態にあったモデルを構築していく。平成18年度調査
研究の成果を活用する。
参考:アジアこども教育センター事業(小学校レベル移動寺子屋教室)
の教育目標
- 発表する力の養成。
- 自由な発想・独創性の養成。
- 聴き、話し、読み、書く力の養成。
- センター内推進チームでの検討を重ねる。外部専門家、作業補助者等の
協力を得て、センターが蓄積してきたカリキュラムを、より途上国の教育
現状に見合う内容に再構築していく。情報収集のレベルでは、
アジア
の
中国、
ベトナム
、
タイ、
ラオス、
バングラデシュ、
ネパール 等の国々の事例を集めながら、より汎用性の高いモデルの構築に
努めるが、今回はその中でも、
タイと
ラオス を中心に現場実践を重ねたものを、具体的な検証事例とする。
なお下記(2)(3)(4)での一連の活動成果を、最終的にモデル・カ
リキュラムの構築につなげていく。
(2)現地教育行政、教育現場での打合せ、モデル・カリキュラムの実践・検証、調査
モデル・カリキュラム作成の過程で、当該国の教育行政担当者との討議、
教員・指導者間での討議を積み重ねる。また実際に、こどもたちを対象に、モ
デル・カリキュラムに沿って、授業案を作成し、教育実践を行い、検証を重ね
る。そのために必要な専門研究者等を日本から派遣する。
昨年度調査実施の東南アジア(タイ、
ラオス)
を中心に、さらに南アジアを加え、当該国での参加型学習に関係する教育実践
を推進する。
-
タイ、
ラオ
スについては教員・指導者研修の実施に向けて、研修用事例として、
教育現場でのさまざまな教育実践の映像記録、活字記録を作成する。特
に
タイにおいては、教育NGO(アジアこども教育センター等)が実践す
る「参加型学習」事例をていねいに記録し、研修材料とする。教育省等
と教員・指導者研修の内容、進行についての準備を行う。
- 南アジアについては、
バ
ングラデシュ、
ネパー
ル を対象とする。現状調査を実施するとともに、モデル・カリキュ
ラムに沿って、教育現場での教員との意見交換、試行的教育実践を行う。
(3)当該国から、教育行政担当者、現場教員・指導者等の日本への招聘
拓殖大学国際開発教育センターが実施する「国際開発教育ファシリテーター
養成コース」(1年コース)への一部参加、教育委員会との意見交換、日本の
小中学校等での参加型学習促進教育実践の見学、当該国でのカリキュラム開発
のための日本の専門家との意見交換を行う。
(4)外部専門家、教育現場の教員等を招いた研究会、日本国内の関係者との協議の実施
本事業を推進するため、文部科学省
関係部局、JICA教育協力専門員、
教育協力NGO(例:シャンティ国際ボラン
ティア会、シャプラニール
等)、教育委員会(例:さいたま市教育委員会
等)、国際教育分野教員団体(例:全国国際研等)、拓殖大学国際開発教
育ファシリテーター養成コース修了の教員グループ、その他関係する研究者、
実践者、教員等との研究会、協議会を実施する。
2. 目標
平成19年度においては、次の諸点を達成することを目標とする。
- センター内外の専門家を中心とした研究会等を通じ、途上国における参
加型教育手法の教育実践への活用普及を目指すとともに、教員・指導者用
のモデル・カリキュラム、評価指標を作成する。
- 子どもの勉学意欲を促進し、子ども自らが勉学することの喜びを感じ、
最低限の勉学目標に到達し、卒業できる状態をつくるために、教育の質の
改善の一環として、参加型学習が有効であり、かつ、そのために教員・指
導者がファシリテーター(促進者、触媒者)としての技能を習得すること
の重要性を、当面対象とする各国の関係者間での理解を広める。具体的に
は、当該国で、今日の教育現状(良い事例、課題をもった事例とも)の丁
寧な記録などの作業を通して、当該国での教員・指導者研修の足がかりを
作る。
3. 成果物
- 教員・指導者用モデル・カリキュラム。
- 当該国での教育実践記録(映像、活字資料)。
- 事業実施報告書。研究会記録、関係者の日本招聘記録、当該国訪問記録等。
4. 国内報告会資料