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持続発展教育(ESD)の理念に基づいた途上国における地域医療教育モデル導入と普及

三重大学

1 概要

(背景)

地域に目を向け、地域に根差した活動のできる医師の育成のために、大学(病院)のみならず地域を学習の場とする地域基盤型医学教育(Community-based Medical Education:CBME)が、近年行われている。いくつかの先進的な大学では、地域の健康課題に基づいたプロジェクトを学生が企画し住民とともに取り組む実習を行っている。それは、地域のニーズに沿って活動し、健康を支援する環境を作り出すものであり、医療資源に乏しいへき地や途上国ではそうした活動がより一層求められる。

国連「持続可能な発展のための教育(ESD)」は、持続的な発展のための知識や価値観、行動を育むものである。医学教育領域でESDに触れられる機会はこれまでほとんどなかったが、実は、ESDとCBMEには、多くの共通する価値観、特徴、アプローチ法が存在する。よりよい未来像を描くこと、問題解決能力や体系的な思考力、情報分析力、コミュニケーション能力はその一端である。さらに、パートナーシップを確立し、対話と交渉を繰り返して協働すること、意思決定の場に参画し、人々のエンパワメントを行うという行動は、地域医療を担う医師に共通に求められているものである。

(これまでの取り組み)

ESDのスキルを学び“持続可能な社会づくり”に取り組むことは、地域医療を担う人材育成につながる。本課題では、ESDの理念に基づいた地域医療教育プログラムを開発し、卒前医学教育に導入することを目指している。我々は、平成20年度の国際協力イニシアティブ事業において三重でワークショップ(以下、 WS)を開催し、三重大学と協定を結ぶタイ、タンザニア、アラブ首長国連邦(以下UAE)の各医学部の教員と共にESDの視点から学生用および教員用の実習手引書version1.0を作成した。その後、WS参加者は各大学に戻り、地域医療教育担当部門にWS内容を報告するとともに実習手引書を配布するなどして、カリキュラムへのESD導入に向けて計画作りを行ってきた。電子メールでやりとりを続けているが、タイ・コンケン大学、タンザニア・ムヒンビリ健康科学大学とも、医学教育へのESD導入を非常に意義あることと受け止めている。しかし、いずれの医学部においてもESDという枠組みに出会うのは初めてのことであり、それぞれの大学においてFaculty Development(以下FD)を行う必要を感じるとの報告を受けている。

(今年度の取り組み)

本年度は、昨年度WS参加者の要望に応えて、FDのためのWSをタイとタンザニアの医学部で行い、学生実習への導入を支援する。タンザニアよりも進んだ地域医療教育を行っているタイ・コンケン大学のWSにタンザニア教員にも参加してもらい、タンザニアでのFDに活用していただくよう計画している。また、隣国ラオスからも国立大学教員を招待し、ESDを学ぶ機会を提供する。その過程を通してESDの理念に基づくCBMEの新しい教育モデルが、タイ、ラオスならびにタンザニアで受け入れられるか、成果物は有効かを検証する。さらに、WSにおける討議を反映して実習手引書改訂版(ver 2.0)を作成し、成果物とする。そのほかESDとして役立つ地域医療実習例を日本、タイ、ラオス、タンザニア、UAEの医学部で収集し、「地域との協働プロジェクト事例集(英語版)」としてまとめる。

2 目標

  • ① タイ・コンケン大学(KKU)の地域基盤型医学教育におけるESDの推進を支援する目的で、KKU教員・学生を対象とした、WSを実施する(添付資料1)。このWSでは、Ubonrat地区の視察、学生と住民の協働による地域プロジェクト見学も行う(Ubonrat地区は、Ubonrat Hospitalの医師夫妻が、ダムの建設により耕作地が奪われた貧しい農民に働きかけSustainable Health Development Programを実践している地域である)。

  • ② ① のWSには、KKU教員の他に、タンザニア・ムヒンビリ健康科学大学の地域教育担当教員とラオス国立大学医学部の教員も招待する。医学教育のなかでは認知度の低いESDについて、ラオスの医学部にも知っていただく機会とする。WSは、タイ側の活動実施者が中心になって運営し、日本とUAEの教員がサポートする。

  • ③ タンザニア、ラオスの医学部教員は、帰国後にそれぞれの大学でFDを実施する。タンザニア・ムヒンビリ健康科学大学のFDには、本事業の活動実施者である日本とタイ、UAEの教員がタスク・フォースとして参加し、FDプログラムの企画立案・運営を現地でサポートする。昨年の成果物である実習手引書を教員・学生に配布し、活用を働きかける。

  • ④ タンザニア・ムヒンビリ健康科学大学は、地域医療教育のカリキュラム改善を行っているところであり、新カリキュラムがESDに沿ったものとなるようカリキュラム開発を支援する。

  • ⑤ ①〜④ の経験を踏まえ、昨年度の成果物の改訂版を作成する。各大学の個々の状況に応じて変更を加えてもらい、成果物である手引書の資料セクションで例示する。また、タイ、ラオス、タンザニア、UAE、日本の医学部で実際に行われた地域医療実習のなかから、ESDといえる実践例を収集して事例集(英語版)を作成する。

3 成果物

  • 地域保健医療教育のためのFD教材「Community-based Medical Education Module Incorporating and Promoting the Concepts of Education for Sustainable Development Teacher’s Guide ver. 2.0」(英語版)各大学の変更点をappendixとしてつける
  • 地域医療実習マニュアル「Community-based Medical Education Module Incorporating and Promoting the Concepts of Education for Sustainable Development Student’s Guide ver. 2.0」(英語版)
  • 「地域との協働プロジェクト事例集」(英語版)
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