社会科学を学ぶ外国人学生のための体系的な専門基礎教材開発
名古屋大学
1 概要
明治期以降、日本は西欧の法制度を継受するとともに、外来の新しい機構と制度を運用する人間の養成、すなわち「人づくり」をきわめて重視してきた。冷戦の崩壊後、アジアの体制移行諸国は、市場経済と体制移行に適応するための新たな人材を養成することが急務となり、日本に対して明治期以来の制度構築と人材育成の経験を伝える知的支援を要請するようになった。
名古屋大学法政国際教育協力研究センターは、大学院法学研究科とともに、1990年代以降、アジア諸国に対する法整備支援、とりわけ途上国、体制移行国の法学教育支援に取り組んできた。この間、法学研究科は、英語による日本法教育を行う留学生特別コースを設置し、アジア諸国から多くの留学生を受け入れるとともに、2005年からはウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアの学術交流協定校の協力を得て、「日本語による日本法教育」を行う日本法教育研究センターの設立を推進してきた。このプロジェクトは、上記4カ国の法科大学・法学部で学び、各国に設立した日本法教育研究センターに在籍する学部生を対象とし、各国の法学教育を受けながら、同時に比較対象として複眼的に日本法を学ぶことにより、将来、各国の法改革を担う人材を育成することを目指している。
しかし、この過程で、外国人学生に日本語で社会科学を教えるための体系的な専門基礎教材と方法論、すなわち、(1)社会科学を最終目的として日本語教育を行うための方法論、教材、カリキュラムとは何か、(2)一定の日本語を習得した段階で、社会科学をどのような方法により教育するのか、といった問題が、けっして自明のものではないことも明らかになった。これらの課題を解決するために、名古屋大学法政国際教育協力研究センターは、大学院法学研究科とともに、平成21年度国際協力イニシアティブ「社会科学を学ぶ外国人学生のための基礎教材開発」を実施し、『社会科学を学ぶ外国人学生のための日本史・公民』を刊行し、『日本の法システム』を作成した(前半部のみ完成)。そこで、本事業では、その成果を引き継ぎ、さらに専門に特化した教材を開発するために、「社会科学を学ぶ外国人学生のための体系的な専門教材開発」を行うこととした。
本事業では、
(1)社会科学を学ぶ外国人学生のための専門基礎教材として、私法入門・公法入門などの入門教材の開発、昨年度刊行した教材(日本史・公民)の改良、昨年度から作成を続けている教材(日本の法システム)の完成
(2)テレビ会議等を活用する遠隔教育と現地での教育を組み合わせたカリキュラム・教授法の開発
(3)ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアの名古屋大学日本法教育研究センターの講義での教材の検証
(4)名古屋大学大学院法学研究科での外国人学生を対象にした講義での教材の検証
(5)教材の検証結果を踏まえた教育方法論の確立、
を目指す。
そのために、
(1)日本語教育・法学政治学教育の関係者による事前の研究会の開催
(2)私法入門・公法入門など広く社会科学の専門教材(レジュメ、スクリプト、ビジュアル教材)の開発、および昨年度の事業により既刊の基礎教材(日本史・公民・日本の法システム)の改良
(3)ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアの名古屋大学日本法教育研究センターおよび名古屋大学大学院法学研究科での外国人学生向け講義での検証
(4)他大学の社会科学系教員・日本語教育教員も参加するワークショップの開催(2010年12月に開催予定)と成果物(教材・カリキュラム・教育方法論)の検討による教育協力モデルとしての課題の明確化と報告書の刊行
(5)社会科学を学ぶ外国人学生に対する教育協力を本学と協議中の国内の他大学の社会科学系学部(一橋大学大学院法学研究科、九州大学大学院法学研究科、三重大学人文学部、慶応義塾大学大学院法学研究科、中央大学大学院法学研究科)に本事業の成果物(教材・カリキュラム・教育方法論)を提供し、教材として活用すると同時に検証結果を共有し、さらなる改善に向けた基礎データの収集を行う。
これらの活動を通して、「社会科学を学ぶ外国人学生のための体系的な専門教材開発」の方法論を確立し、社会科学分野における教育協力モデルとして公開することにより、日本で社会科学の学修を志す外国人学生を支援するとともに、国内外の援助関係者が教育協力の現場で活用可能な成果を作成することを目指す。
2 目標
本事業では、「社会科学を学ぶ外国人学生のための体系的な専門教材開発」を実現するために、いわば日本語教育と社会科学教育の橋渡しにあたる部分のカリキュラム、教材、方法論を以下のように体系的に整備することを目標とする。
まず、
(1)日本で社会科学を学ぶ外国人学生のための私法入門・公法入門などの入門教材の作成
(2)その教材のためのカリキュラムの開発
(3)その教材とカリキュラムのための教育方法論(AV機器を活用する遠隔教育と現地での教育を組み合わせた教授法)の開発、を行う。
つぎに、その成果として開発された教材、カリキュラム、教育方法論は
(A)ウズベキスタン、モンゴル、ベトナム、カンボジアの名古屋大学日本法教育研究センターの講義での検証
(B)名古屋大学大学院法学研究科での外国人学生を対象にした講義での検証、という2段階の検証を経て改善した上で、他大学の社会科学系教員・日本語教育教員も参加するワークショップを開催し、そこで成果物(教材・カリキュラム・教育方法論)を検討して教育協力モデルとしての課題を明らかにし、報告書を刊行する。
これらの活動の成果を公開することにより、社会科学分野における教育協力モデルとして、国内外の援助関係者が教育協力の現場で活用可能なものとする。
3 成果物
第一に 教材として『私法入門』、『公法入門』、『日本の法システム』、『社会科学を学ぶ外国人学生のための日本史・公民』を刊行する。
第二に 上記の教材を使ったカリキュラム・教育方法論を構築する。
第三に 他大学の社会科学系教員・日本語教育教員も参加するワークショップを開催し(2010年12月に開催予定)、成果物(教材・カリキュラム・教育方法論)を検討して教育協力モデルとしての課題を明らかにし、報告書を刊行する。
第四に 社会科学を学ぶ外国人学生に対する教育協力を本学と協議中の国内の他大学の社会科学系学部(一橋大学大学院法学研究科、九州大学大学院法学研究科、三重大学人文学部、慶応義塾大学大学院法学研究科、中央大学大学院法学研究科)に本事業の成果物(教材・カリキュラム・教育方法論)を提供し、教材として活用すると同時に検証結果を共有し、さらなる改善を目指す。