地域支援型保健人材教育機関の連携活性化による持続発展教育(ESD)実践の拡大と定着
名桜大学
1 概要
●背景
地域に根ざした実践活動のできる保健人材を育成するために、いくつかの先進的な教育機関(大学など)では、地域の健康課題に基づいたプロジェクトを住民とともに企画する試みが行われている。それは、地域のニーズに沿って活動し、健康を支援する環境を作り出すものであり、医療資源に乏しい離島・へき地や途上国ではこのような活動により一層注目が集まっている。
一方、持続的な発展のための知識や価値観、行動を育む「ESD(持続可能な発展のための教育)」という概念は、保健医学教育領域に導入されることは殆どなかった。その先駆的試みとして平成20年、21年度に国際協力イニシアティブ事業(課題代表者:武田裕子)が実施されてきたが、その過程で、ESDを地域保健に導入するには、その教育対象を医師に特化するのではなく、他の医療職種や保健師や地域のボランティア人材など、より広く保健医療人材を網羅することも必要であることが結論付けられ、そのための実習手引書「地域基盤型保健医療人材育成のために必要なESD概念の説明とその導入方法」が前年度の成果物として作成された。しかし当該活動実施者の属する教育機関以外へは、実習手引書の送付はなされたが、定着の試みはまだなされておらず、同実習手引書の他地域での応用可能性については、さらなる検討と、普及の為の働きかけが必要である。
●これまでの取り組み
平成20年度は、ESDの理念に基づいた地域医療教育プログラムを開発し、卒前医学教育に導入することを目指した。まず平成20年度の国際協力イニシアティブ事業において三重でワークショップ(以下、WS)を開催し、課題代表者の所属する三重大学と協定を結ぶタイ、タンザニア、アラブ首長国連邦(以下 UAE)の各医学部の教員と共にESDの視点から学生用および教員用の実習手引書version1.0を作成した。その後、WS参加者は各大学に戻り、地域医療教育担当部門にてWS内容を報告するとともに実習手引書を配布するなどして、カリキュラムへのESD導入に向けて計画作りを行ってきた。
平成21年度は、FDのためのWSをタイとタンザニア、UAEの医学部で行い、学生実習への導入を支援した。タンザニアよりも進んだ地域医療教育を行っているタイ・コンケン大学のWSにタンザニア教員にも参加してもらい、タンザニアでのFDに活用していただくよう計画し、また隣国ラオスからも国立大学教員を招待し、ESDを学ぶ機会を提供した。その過程を通してESDの理念に基づくCBMEの新しい教育モデルが、タイ、ラオスならびにタンザニアで受け入れられるかを検証した。さらに、WSにおける討議を反映して地域の保健人材を対象とした実習手引改訂版(ver 2.0)を作成し、成果物とした。そのほかESDとして役立つ地域医療実習例を日本、タイ、ラオス、タンザニア、UAEの医学部で収集し、「地域との協働プロジェクト好事例集(英語版)」としてまとめた。
●今年度の取り組み
平成21年度に作成した「地域基盤型保健人材育成のために必要なESD概念の説明とその導入方法」を掲載した実習手引書の応用可能性を促進するため、当該活動実施者の属する教育機関以外への拡大および定着を試みる。具体的には、同実習手引書を当該活動実施者10名をコアに、以下に挙げる連携教育諸機関(計 28団体)に配布し、可能であれば実践を通じた意見を広く求める。また、同実習手引書に日本の事例を反映させられるよう、日本語にも翻訳し日本での事例に基づく意見を取り込みやすいようにする。実習手引書の改訂に関するWSはTV会議を通じて2日実施する。TV会議などを通じて得られたコメントを受けて同実習手引書を改訂、最終的には、米国・ピッツバーグ大学を拠点とするSuper Course(公衆衛生学に関する世界中の優れた講義内容を掲載、誰でもアクセスできる無料のサイト)に同実習手引書を掲載する。以上の成果を広く共有するため、日本(沖縄)にて国際ワークショップを開催する。
2 目標
① |
本活動実施者の所属先(名桜大学、三重大学、岡山大学、琉球大学、タイ・コンケン大学、タンザニア・ムヒンビリ健康科学大学、アラブ首長国連邦・サルジャ大学)の活動実施者がコアとなり、それぞれ地域支援型保健人材を教育する為の実施機関である新規連携教育機関と密接に連絡を取り合い、保健分野におけるESD概念の拡大と定着の可能性を検証する。 |
② |
①の新規連携教育機関において、昨年度の成果物「ESDに基づく地域保健医療人材育成のための実習手引書」を実践の場で活用してもらい、その経験から得られる教訓を抽出する。 |
③ |
②の結果を共有する為に、活動実施者間でTV会議を開催する(2回)。 |
④ |
ICA研修員に実習手引書の内容に関する講義をし、有志には帰国後、現場での実践を依頼し、その結果をフィードバックしてもらう。 |
⑤ |
ESDに基づく地域保健人材を対象とした実習手引書」の改訂第3版(英語版)を作成する。
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⑥ |
⑤を日本語に訳し、全国の選定された関連諸機関に配布し、内容に関する意見を集める。 |
⑦ |
米国・ピッツバーグ大学のSuper Courseに改訂された実習手引書を掲載し、世界中の保健医療有識者をはじめ、誰もが閲覧できるようにする。 |
⑧ |
①~⑦の経験および意見を共有・体系化する為に、日本(沖縄)にてWSを開催する。 |
3 成果物
- Community-based Health Professions Education Module Incorporating and Promoting the Concepts of Education for Sustainable Development Teacher’s Guide (ver3.0, 英語版および日本語版)
- Community-based Health Professions Education Module Incorporating and Promoting the Concepts of Education for Sustainable Development Student’s Guide (ver.3, 英語版および日本語版)